ノーベル賞
NHKのテレビ番組「サイエンス・ゼロ」を見た.話題はノーベル賞.小林,益川の両先生を招いて,また一方には全部で数十人の生徒・学生・タレントを並ばせて,いわばバラエティ番組ふうの形式.
ひと通りの紹介,あいさつのあと,びびる大木(タレント)による小林・益川理論の解説.化学賞の下村先生の研究の解説.そして南部先生の研究の解説,と続く.
先生方の生い立ちや苦労話なども織りまぜて,興味深い番組だった.小林・益川先生への質問や下村先生(米国にいる)への質問を会場から出させて,それぞれ答えてもらうという趣向も面白かった.印象に残っているのは,スランプのときどうするかという趣旨の質問に対する返答.小林先生は「ひとまず置いておく」と答えたのに対し,下村先生は「さらに努力する」というような回答だった(そういう言葉,言い回しだった訳ではありません.ここでは言葉の内容を書いています).物理屋と化学屋の違いというか,理論屋と実験屋の違いが,ちらりと見えた.
どの質問にも先生方がきちんと誠意をもって答えていたのが印象的だった.下村さんへの最後の質問「自分の子供にノーベル賞をとらせるには?」は,まあ「やらせ」でしょう.質問者(麻木久仁子)の知性におよそ似合わない愚問である.しかし下村さんは実に誠実に回答されていたと思う.
というのが番組の概要だけど,いくつか感じたことを書いてみたい.第1に,学生時代の益川さんが教授に肩車で乗っかっている写真.普通ちょっと考えられないことだ,と番組では紹介していた.これに対し小林さん益川さんは,研究現場での平等性ということを強調されていた.
科学の世界では「事実」がすべてであり,その筋の権威が何を言っても,「事実」の前には頭を垂れるしかない.小学生でも権威と対等に渡り合える.それが科学の魅力(の1つ)である.特に理学部あたりは,その傾向が顕著である.いや,顕著であった,と言うべきかもしれない.小泉改革以後の大学には政治やカネの問題が入り込んで,結果としてタテ関係が強化されたようだ.
昔は多くの大学・学部が「平等性」を指向していたと思う.「教授会」というのは教授が集まって会議をする訳だけど,大学・学部によっては教授以外の教官,つまり助教授や助手までも参加できるような「教授」会もあったようだ.これに対し文部省からは,そういう「教授会」で決定されたようなものは無効だというような指導?もあったらしい.
どの情報も噂や伝聞ばかりで申し訳ないのだけれど,大学側の平等指向に対し,文部省側はタテ関係の維持強化に努めて来た.そして小泉改革によって後者が勝利を収めた,という構図がうかがえる.平等性の失われた現在の大学は,小林・益川理論を産んだ研究環境とは異質のものである.
肩車で学生が教授の上に乗るのが「ちょっと考えられないこと」と解説したNHKは,さすが官僚機構のコピー版というか,タテ関係の重視される世界らしい.
私が感じた第2点は,4人の先生が最後のまとめとして書かれた言葉について.小林さんは「科学を好きになること」,益川さんは「philosophia」(つまり,知識を愛すること).下村さんは「自然を尊ぶこと」だったかな? そして南部さんは「学びて思わざれば〜」という格言をそのまま書いていた.小林さんと益川さんの趣旨は完全一致.下村さんの趣旨も,それにかなり近いと思う.こういうコメント対してさえ,番組の司会者は「頑張りましょう」ばかりを強調していた.
昨年の国際「学力」調査で「科学が好き」と答えた日本の小中学生のパーセンテージは,他の多くの国の子供に比べて非常に低かったらしい.学力テストで競争をあおり,「頑張れ」を強調するばかりでは,この面での改善はまあ望めないでしょう.
第3点.ホタルイカの光る仕組みの映像のところで,ナレーションが最後に言った言葉が,とても奇妙だった.何と言ったのか,残念ながら憶えていない.ノーベル賞をめざして,みんな頑張り続けているのです,といった言葉だったかもしれない.まるで戦争中の放送か,それともピョンヤン放送か,という具合に聞こえた.
NHKは昨年の正月を「地球温暖化」キャンペーンで始めた.私は温暖化問題に関心があるし,CO2削減の努力が必要と考えている.しかし洗脳放送はダメだ,と思っている.NHKはそれをやっていた.秋になって不況が深刻化するとともに,なぜかCO2問題は宣伝されなくなった.
そして今年は「ノーベル賞」キャンペーンで始まったわけだ.今後しばらく「ノーベル賞」関係の洗脳放送が続くと予想される.何年までに何個のノーベル賞を,などと「数値目標」を掲げようとした政府である.今やノーベル賞の獲得は「国策」なのであろう.
ひと通りの紹介,あいさつのあと,びびる大木(タレント)による小林・益川理論の解説.化学賞の下村先生の研究の解説.そして南部先生の研究の解説,と続く.
先生方の生い立ちや苦労話なども織りまぜて,興味深い番組だった.小林・益川先生への質問や下村先生(米国にいる)への質問を会場から出させて,それぞれ答えてもらうという趣向も面白かった.印象に残っているのは,スランプのときどうするかという趣旨の質問に対する返答.小林先生は「ひとまず置いておく」と答えたのに対し,下村先生は「さらに努力する」というような回答だった(そういう言葉,言い回しだった訳ではありません.ここでは言葉の内容を書いています).物理屋と化学屋の違いというか,理論屋と実験屋の違いが,ちらりと見えた.
どの質問にも先生方がきちんと誠意をもって答えていたのが印象的だった.下村さんへの最後の質問「自分の子供にノーベル賞をとらせるには?」は,まあ「やらせ」でしょう.質問者(麻木久仁子)の知性におよそ似合わない愚問である.しかし下村さんは実に誠実に回答されていたと思う.
というのが番組の概要だけど,いくつか感じたことを書いてみたい.第1に,学生時代の益川さんが教授に肩車で乗っかっている写真.普通ちょっと考えられないことだ,と番組では紹介していた.これに対し小林さん益川さんは,研究現場での平等性ということを強調されていた.
科学の世界では「事実」がすべてであり,その筋の権威が何を言っても,「事実」の前には頭を垂れるしかない.小学生でも権威と対等に渡り合える.それが科学の魅力(の1つ)である.特に理学部あたりは,その傾向が顕著である.いや,顕著であった,と言うべきかもしれない.小泉改革以後の大学には政治やカネの問題が入り込んで,結果としてタテ関係が強化されたようだ.
昔は多くの大学・学部が「平等性」を指向していたと思う.「教授会」というのは教授が集まって会議をする訳だけど,大学・学部によっては教授以外の教官,つまり助教授や助手までも参加できるような「教授」会もあったようだ.これに対し文部省からは,そういう「教授会」で決定されたようなものは無効だというような指導?もあったらしい.
どの情報も噂や伝聞ばかりで申し訳ないのだけれど,大学側の平等指向に対し,文部省側はタテ関係の維持強化に努めて来た.そして小泉改革によって後者が勝利を収めた,という構図がうかがえる.平等性の失われた現在の大学は,小林・益川理論を産んだ研究環境とは異質のものである.
肩車で学生が教授の上に乗るのが「ちょっと考えられないこと」と解説したNHKは,さすが官僚機構のコピー版というか,タテ関係の重視される世界らしい.
私が感じた第2点は,4人の先生が最後のまとめとして書かれた言葉について.小林さんは「科学を好きになること」,益川さんは「philosophia」(つまり,知識を愛すること).下村さんは「自然を尊ぶこと」だったかな? そして南部さんは「学びて思わざれば〜」という格言をそのまま書いていた.小林さんと益川さんの趣旨は完全一致.下村さんの趣旨も,それにかなり近いと思う.こういうコメント対してさえ,番組の司会者は「頑張りましょう」ばかりを強調していた.
昨年の国際「学力」調査で「科学が好き」と答えた日本の小中学生のパーセンテージは,他の多くの国の子供に比べて非常に低かったらしい.学力テストで競争をあおり,「頑張れ」を強調するばかりでは,この面での改善はまあ望めないでしょう.
第3点.ホタルイカの光る仕組みの映像のところで,ナレーションが最後に言った言葉が,とても奇妙だった.何と言ったのか,残念ながら憶えていない.ノーベル賞をめざして,みんな頑張り続けているのです,といった言葉だったかもしれない.まるで戦争中の放送か,それともピョンヤン放送か,という具合に聞こえた.
NHKは昨年の正月を「地球温暖化」キャンペーンで始めた.私は温暖化問題に関心があるし,CO2削減の努力が必要と考えている.しかし洗脳放送はダメだ,と思っている.NHKはそれをやっていた.秋になって不況が深刻化するとともに,なぜかCO2問題は宣伝されなくなった.
そして今年は「ノーベル賞」キャンペーンで始まったわけだ.今後しばらく「ノーベル賞」関係の洗脳放送が続くと予想される.何年までに何個のノーベル賞を,などと「数値目標」を掲げようとした政府である.今やノーベル賞の獲得は「国策」なのであろう.
2009-01-06 08:12
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ですか(ブログ「浦戸湾」 2009-01-18 11:17)
電車の「で」,バスの「す」,カードの「か」.合わせて「ですか」.高知県内の路線バスを仕切る2社(高知県交通,土佐電鉄)が合同で発行するICカードである.土佐電鉄は高知市の路面電車も経営していて,カードは両社の路線バスのほか路面電車にも共通に利用できる. ...
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あ、久しぶりに更新されましたね!
>肩車で学生が教授の上に乗るのが「ちょっと考えられないこと」
…そんなことはないですよね。
私たちの時代でもふつうに助手や助教授を「さん」づけで呼んで
冗談言ったりからかい合ったりしてましたし、
研究室みんなで遊びに出かけたりしてましたもん。
たいていの研究室はそんな雰囲気でしたから、
何かの拍子に教授が「肩車してやるぞー」といっても
全然不思議じゃなかったと思います。
(あ、うちの研究室ではありそうもないかな。ちょっと教授は煙たがられていたから)
しっかしNHK、ノーベル賞めざして頑張ろう、はないでしょう…><
by えあしゃ (2009-01-08 23:02)
ご訪問ありがとうございます.リアルのほうが少し落ち着いてきたので,また少しずつ更新して行こうと思っています.今年もよろしくお願いします.
平等性の高い研究室は良いですね.相手が誰であろうと鋭いツッコミを入れるぐらいの雰囲気があると良いのですが.
小泉首相はどれほど多くの悪事をなしたのか数えあげているブログがありました.今こそ多くの小泉「改革」を見直すべき時期だと思います.しかし小泉改革のなした悪事の中で,それまでの大学の雰囲気を根底から破壊してしまったことは,一般にあまり注目されていないようです.
日本が戦争への歩みを進めていた頃,さまざまな自由が制限されていく中で,大学は最後に残された「自由の砦」だったでしょう.今の日本にはそういう「砦」はもうありません.
NHKのピョンヤン放送ぶりにも注目です.
by Ladybird (2009-01-09 04:30)
自由にのびのびと好きな研究できたたいいなあ~て思いました。
by ayu15 (2009-02-01 17:28)
ご訪問ありがとうございます.
自由にのびのびと,好きな研究を,ということの大切さが,一般にあまり理解されてないようです.
この大切なことを守り維持するために,大学人には一種のケジメというか,厳しい自己点検が必要でしょう.ただし,それは小泉改革によって導入された「自己点検」とは,ずいぶん違うものでなければならないと思います.
by Ladybird (2009-02-02 03:00)
ノーベル賞は、とるものじゃなく、結果としてもらうものなんですがねー…
という話題ではない。
意外に、ノーベル賞って、その後「ブーム」になってないような気がします。
たまに、「産大」が、ご利益を狙って、ネタ振りしてるようですが。
民間企業の「田中さん」のときとの違いなのか、素粒子自体がシロウト受けしないせいなのか…
by ×第二迷信 (2009-02-13 21:34)
じつは最近あまりテレビを見てないのですが,ブームが去ってしまったような気もします.
NHKのような洗脳放送ではなく,大学のあり方について,もっと基本的な問いかけがされねばならないと思います.しかし高校までの教育で理科ぎらい国民を量産しているとしたら,そういう国民に「問いかけ」ても無意味かな,などと考えたり...
by Ladybird (2009-02-14 03:55)
>私は温暖化問題に関心があるし・・・
僕もです。
オモテのLMNで書いてます。
未だに地球温暖化を疑問視してる人がいます。
「科学者が政治に余計な口を挟むな」とか。
「あと10年くらい様子を見ないとデータ不足」とか。
「平均気温が0.5度上がるのがナンだっていうんだ」とか。
中学理科の知識すらないんでしょうね。
そういう人たちって。
ノーベル賞どころじゃありません。
by Hirosuke (2009-02-22 17:58)
>オモテのLMNで書いてます。
拝見しました.
最近の環境問題は,ますます分かりにくくなっていますね.
by Ladybird (2009-02-23 04:15)
自己点検ですね。なるほど~。
ノーベル賞取る人は京大に関った人おおいですね。
「石垣カフェ」がゆるされたり自由な反骨??の他の日本大学にはない雰囲気??があるのかもしれませんね。
by ayu15 (2009-05-07 21:47)
大学に限らず自由と平等は,人の自発性を養い,社会を活性化させるものです.その正反対が,たとえば「学力テスト」であり,たとえば小泉以後の「評価」主義でしょう.こういうふうな,競争をあおって人の尻をひっぱたくような手法を,日本政府は一貫してとって来ました.
たしかに京大には,そういう政治の干渉を許さないような,独立独歩の雰囲気があったのでしょう(今はどうでしょう?).それを支えていた1つの要因は,大学人の傲慢ともいえる強い自負心だったかもしれません.
自由と平等の精神.そして自負心.今の大学にどれほど残っているか,まことに心もとないものがあります.
by Ladybird (2009-05-08 11:08)
先日覗くと、非正規雇用職員が構内の目立つ所でテントはって立てこもっていました。「すごぃ」と思いました。大学当局は撤去警告だしても武力?で強制排除はしていません。
さすが京大!
by ayu15 (2009-05-08 13:44)
やりますね.当局もじつは困っているのかもしれないけれど,そこは何とか乗り切るんじゃないでしょうか.
いつぞや話題になった折田先生の一件
http://freedomorita.web.fc2.com/
も,注目?しています.
by Ladybird (2009-05-09 10:55)