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誰がミツバチを殺したか?

 前回は,家畜化について「考察」しよう,などと偉そうに書いてしまったけれど,考えてみれば「考察」の大部分は,以前に書いた内容の繰り返しになる.そのことをまずお断りしておきます.

 ミツバチの大量失踪の原因としてNHKが挙げているのが「家畜化」である.この説が正しいかどうかは別として,「家畜化」によって起こりうる不都合な点について説明しよう.
 家畜は野生動物とどう違うのか,「家畜化」が起こった場合,それがなぜミツバチのコロニー維持を難しくすると考えられるのか,ミツバチに限らず,一般に動物が家畜化されたら,その動物にどういう問題が生じるか?

 まず第1に,近親交配が起こる可能性がある.家畜化の初期には親子や兄弟(兄妹や姉弟)など血のつながった個体間での交配が起こる確率が高い.特に品種改良を試みる場合,特定の性質をもつものを選んで交配させるので,近親交配の可能性はさらに高まる.
 近親交配が起こると,通常は隠されている劣性遺伝子が発現し,生きて行く力の弱い個体がしばしば生じる.理論的には,まあそういう事である.
 近親交配の結果どういうことが起こるかを具体的に理解するのは難しい.特定の生物(昆虫など)を長く継代して飼っていると,いつの間にか死ぬ個体が多くなって,やがて集団の維持が困難になることがある.これは,カビなどが繁殖して,その昆虫を殺しているのかもしれない.または,ひょっとしたら近親交配の結果として「生活力の低下」が起きているのかもしれない.確定は難しいが,条件次第では後者の可能性も十分にある.

 家畜化に伴って起きうる第2の可能性は,病原体ないし寄生体の「凶暴化」である.家畜は野生動物に比べ密集度が高いことが多い.このため病気が伝染し易くなる.その結果として病原体は「凶暴化」する.詳しくは,
「病気という『自然』」
http://henachokosizenhogo.blog.so-net.ne.jp/2008-03-31
をご参照ください.
 要するに,それまでは病原性の低い,「共生」的性格の強かった寄生体が,伝搬が容易になることによって,凶暴な病原体に変わる.そういう可能性がある.

 第3の可能性.家畜化によって動物は,病原体などに対し弱くなる可能性がある.野生動物の個体群は,生存のために遺伝子組成を刻々と変えている.家畜になってしまうと,その時点で「時間が止まって」しまう.いわば時代の流れについて行けなくなる.このため病原体に抵抗できない.これは「赤の女王」と呼ばれる仕組みである.詳しくは,
「赤の女王」
http://plaza.rakuten.co.jp/tosana/diary/200711190000/
を見てください.

 「家畜化」というシンボリックな表現は言い得て妙であるが,その内容は1つではない.具体的には上記のような仕組みが考えられるし,もっと色々あるかもしれない.それらは同時進行で働く可能性もある.しかし,もし1つだけ選ぶとすると,説明を省きますが,最も可能性が高いのは「赤の女王」でしょう.
 これでは何のことか分らない,とブーイングが聞こえて来そうです.そこで,話を思い切り単純化して,次のように言うことにしよう.

- もしミツバチ大量失踪の原因が「家畜化」によるのだとしたら,ミツバチたちを殺した犯人は,おそらく「赤の女王」である.
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コメント 7

SilverMac

ご訪問アリガトウございます。
by SilverMac (2010-05-30 19:52) 

Ladybird

 ナイスとコメントありがとうございます.
 「やまももタイムカプセル」いいですね.
by Ladybird (2010-05-31 13:03) 

Ladybird

 「私は科学者」さん,トラバありがとうございます.
by Ladybird (2010-06-02 09:41) 

ayu15

以前誰かが動物は本来食べていた食べ物を与えずに人工のものあたえてばかりはよくないといってました。

それにより自然のサイクルから外れてしまうそうです。
「里山」に帰ってもサイクルにのれず人間にもらえないと飢え死にとか。


 うちには そのことよくわかんないんですが、循環していた里山がこわれて生物が「家畜化」で「人工」が進めばよくわかんない問題がふえる気がしてならないんです。


by ayu15 (2010-06-23 20:51) 

Ladybird

ayu15さん,コメントありがとうございます.

>人工のものあたえてばかりはよくない

 私は野生動物を育てた経験がないので,よくわかりません.
 そうですね.人に育てられたネコはネズミを食べないことが多いでしょう.ネズミを食べることを自分(独学?)で習得する子猫もいるようですが,野生状態なら母親から教わるのでないでしょうか.野生を離れてしまった猫の子供はネズミを食べることを学習しないことが多く,だから野外では生きていけないかもしれませんね.

 ただ,今回の記事で取り上げた「家畜化」の問題点は,そういう話には触れないで,遺伝学的に起こりうるいろいろな不都合を挙げてみました.

>生物が「家畜化」で「人工」が進めばよくわかんない問題がふえる

 そう思います.野生動物は家畜でもペットでもないことを,しっかり認識しておく必要がありますね.
by Ladybird (2010-06-23 21:31) 

ORFEUM

日本蜜蜂の飼育を始めて6年目。1群から始めて13群まで増えたのですが、アカリンダニと思われる症状で大半を失い、昨年は経験したことがないほどのしつこい蜂児捨てで1群となってしまいました。
群を増やせたのはラ式の巣枠に切り替えて人工分蜂を行うようになったからです。実は減少の傾向はアカリンダニ蔓延の前から有りました。
いろいろ考え、試行錯誤もしてみましたが効果はありませんでした。
現時点での結論は近親交配による「健康」の低下です。人工分蜂で高効率で定着出来たことが、元を辿れば一匹の女王に行き着くことになったのではないかということです。
赤の女王き大変勉強になりました。今年は新女王群を交尾期間知人の蜂場に間借りさせて頂くことになりました。

by ORFEUM (2015-01-22 09:52) 

Ladybird

 ご訪問とコメントありがとうございます.

 生物を長期飼育していて時々出会う問題が,群れ全体としての生活力や繁殖力の低下です.その原因が近親交配と考えられる事例もありますが,それでは説明できないこともしばしばあります.要するに生物についての我々の知識は「まだまだ」なのだと思います.

 たとえば栄養の偏りが数世代に渡って蓄積した結果どういう事が起るか,などという現象は,ほとんど研究されていないでしょう(私はそういう事例を少なくとも1つ知っています).

 また,今後おそらく特に注目すべきは,感染生物ではないかと思います.未知のウイルスや菌,それらを媒介する昆虫など,今後まだまだ新発見があるのでないでしょうか.ミツバチを飼育されているのなら,農業試験場とか大学農学部などと日常的に情報交換して行かれれば,双方にメリットのあることだと思います.
by Ladybird (2015-01-28 09:39) 

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